狼に育てられた子供達(2)

発見の経緯

 キリスト教の牧師がこの頃宣教のため各村を回っていました。この牧師に村人が、夕方になると蟻塚から化け物が出てくるのでなんとか退治してもらいたい、と依頼をしたようです。

 牧師に化け物退治を依頼するのも変な話だなと思いますが、魔除け等の役割もあったのかもしれません。

 そこで牧師は村人達を集め、白昼蟻塚を壊し始めました。すると中から2匹の親狼と2匹の子狼、そしてさらに2人の子供を発見。

 この子供が化け物に間違えられたいたわけですが、その理由は、髪の毛にありました。生まれてから一度も切られていない髪の毛が頭からもつれるように背中にたれていたのを見て、化け物と思ったようです。

 牧師は逃げ回る2人をなんとかつかまえ、孤児院に収容した。そして年上の子をカマラ、年下をアマラと名付けました。


発見当時の彼女たちの様子

 食物をなめて食べ、日中は眠っているかうとうとしている状態。当然夜行性で夜中に3度遠吠えの真似をしたようです。

 また両手と両足を使っての四つ足歩行。あたりまえですが着るものは拒否。外観だけでもこれだけ違う上に、当然音声もなく、いわゆる人間的な感情がなかった、と書かれています。

 身体的には、肉食のためアゴや犬歯がが発達し、四つ足歩行のため腕が長く、筋肉が盛り上がっていた。

 要するに狼の生活や行動様式をそのまま受け継いでいるわけで、人間的な特徴は、ほとんど見られなかったようです。


その後の経過

 その後の経緯を時間的な流れで書くと、空腹時に牧師の婦人に近寄る。アマラが死亡し、カマラがその死を意識して涙を流す。

 子山羊と遊ぶようになり、空腹かどうか尋ねられてうなずく。ヒザで立ち、さらに歩く。両足で立つと共に、他の子供達とブランコで遊ぶ。

 のどが渇くと水の所へ行き、「水」と言う。両足で立つが走れない。うなずいたり、首を振ったりする。暗闇を恐れ、急速に単語を覚える。

 服を着て、短い文章を口にする。日本足で歩くが、走るときは四本足。歌を歌う。最後に尿毒症で死亡。推定年齢17歳。


教訓(?)

 以上の内容を生徒に聞かせたとき、生徒は何を考えるのだろうか、どこに感銘を受け真剣に聞くのだろうか。いまだによくわかりません。

 狼に育てられた人間が存在したという事実、そしてそれが最後には人間として死を迎えた、という部分でしょうか。

 初めてこの話を聞かせたときの生徒の反応は、「そんなに早く死んじゃうんだったら、そのままにしとけばいいじゃん」という予想外の反応でした。言われてみるともっともな考えで、反論するのが意外に難しいです。

 最近は、牧師さんという職業柄、人間が狼として育てられるのを容認することは出来なかったし、人間は人間として育てられる事が一番大事なんだ、と説明することにしています。

 また人間の生活習慣や感情、言葉、思想といったものは、人間社会の中で育てられるのであって、狼には人を人として育てる技量がない。

 さらに人間は学習する時期(レデイネス)と言われているものがあって、成長過程の各時期に適当な刺激や学習を行わないと、それをとりかえすには大変長時間かかる、という事実にも注目しています

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