心霊現象の話

 

田舎の家へ

 私は石川県の出身です。と言っても育ちは東京。母親が私を生むために里帰りをしたに過ぎません。

 しかし両親の父母(私にとっての祖父祖母)は、ずーっと田舎に住んで、その一生を終えました。私の父親は長男であり、田舎の風習に従えば、家を継がねばならない立場にありましたが、若いときから公務員として都会で働いていたため、田舎に帰るつもりはなかったようです。

 父方の祖父母は私を帰郷する度に非常に可愛がってくれました。しかしその祖父母はもういません。

 私の父は51歳で過労のため心臓を患い、私の学生時代に急逝しました。その結果私は長男であり、本来なら家を継ぐ身分になってしまいました。

 しかし私も父同様、ほとんど東京暮らしで、今更田舎の家を継いでそこに住めと言われても、そんな簡単に行くことはできません。

 しかし、年齢を重ねるにつれ、家というものの重みや意味も少しずつ理解出来るようになり、少なくとも毎年夏は墓参りぐらい行こうと思い、ここ10数年は、夏のお盆の頃に訪れるようにしています。


奇妙な体験

 奇妙な体験をしたのは、1994年ぐらいの事です。当然ながら田舎の家は現在誰も住んでいません。

 親戚一同で管理しているわけで、鍵はそれぞれの親戚が合い鍵を持っていて、訪れたときはいつでも屋内に入れるようにしてあります。家の中には先祖をまつった仏壇もあり、墓参りの時には、この仏壇にも手をそえるようにしていmした。

 いつものように車を軒先に停め、勝手口につけられている鍵の鍵穴に鍵を差し込もうとしたときです。

 なにやら
家の奥座敷の方でたくさんの人の声のようなざわめきが聞こえます。田舎の農家の家ですから、大変大きな家で、平屋ではあるものの、部屋数は9部屋ぐらい、畳だけで延べ80畳ぐらい、これに縁側等がついているので、総建坪数は50坪を越すと思います。勝手口から仏壇の間までは、かなりの距離があります。

 ざわめきが聞こえたとき、変だな、とは思いました。しかし人間は聞こえるはずがないものが聞こえたとき、かえってそれをあまり気にしないようです。

 私の場合は空耳かな、という感じ。田舎の家なので、まわりは静かです。近くを歩いている人もいません。第一聞こえたのは10人ぐらいの人のざわめきです。

 ところが
鍵穴に鍵を差し込んだ瞬間、そのざわめきがピタッと止みました

 このとき初めて、あれっ何か変だな、という感じがしました。鍵を差し込んだ瞬間、という所がまた意味があるように思えます。

 ちょっと不安になって鍵を開ける手のスピードがゆるみました。誰かが家の中で勝手に宴会でもやっているのかという雰囲気ですが。なんとなく異常なものを感じつつ、鍵を開けます。

 当然何も聞こえません。やっぱり空耳だったか、と思いこもうとしている自分を感じます。

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家の中へ


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